INTERVIEW
2018.01.24

㈱共同紙販ホールディングス 郡司社長に訊く 紙は環境を滅ぼさない 今あなたが知るべき「紙の価値」とは

採用面接や提案営業の初回訪問時など、誰かと会うときに短い時間でも強い印象を残すには――。

組織のトップには日々多くの人が訪れる。経営者の視点から見た「記憶に残る人」、「もう一度話を聞きたくなるビジネスパーソン」の特長とは何だろうか?経営者自身が実際に心がけているポイントも聞ける経営者インタビュー『PERSON ~印象に残るあの人~』。

1947年に創業以来、紙の卸商として大手企業から家族経営の小規模印刷会社まで全国に顧客を持つ株式会社共同紙販ホールディングス。多様な顧客に広く選ばれるための営業のポイントとは何か?今回は、業界でもトップクラスのおしゃれな出で立ちの郡司社長に人の印象について、そして紙と環境に関するイメージについてお話を伺った。

「“謙虚な目線”でお話ししていくことが、
 大切なことだと思っています」

―これまでに、社長にとって印象に残った人はどんな人でしょうか?

自分より先輩の方でも決して上から目線でなくお話をされる方は、またお会いしたくなりますし、もう少しお話を聞いて勉強したいという気持ちになります。私たち紙卸商のお客様は、家族で経営されている印刷会社さんから大手企業まで様々です、どのようなお客様に対しても「お手伝いをさせていただきたい」という気持ちが基本です。

謙虚な目線という言葉が正しいかどうかわかりませんが、そういう考え方を持っていないと我々の商売は成り立ちません。いろいろな肩書きや会社のサイズはあるでしょうが、お会いしている時間はどんな方とでも“謙虚な目線”でお話ししていくことが、大切なことだと思っています。

毎年、入社希望者の学生と面接を行います。なかなか数回の面接で人を理解することは難しいのですが、一番こだわって見抜こうと思うのは「相手の立場を理解しようとし、思いやる気持ちを持っているか、素直な人物かということです」。我々の商売はそういうところが最も大切ですし、社員にも常にそういう気持ちで商売をしなさいと言っております。

―御社の営業スタイルについて教えてください。

目ぢからというのは意識します。欧米の方は、最初にお会いしたときに握手をして、相手の目をじっと見ますよね。子供のころからそう訓練されるようです。ですから外国の方と会って握手をするときは、目をきちんと見ることは意識してやります。私自身小さい頃から「相手の目を見て話しなさい」と親からよく言われました。人と話すときに相手の顔を見ないとか、伏し目がちな人はNGですね。

―服装に関するポイント・こだわりはありますか?

北は青森から南は鹿児島まで、会社規模に関わらず営業が一軒一軒伺います。鹿児島の離島には、おじいさん、おばあさんとお孫さんが家族で印刷業を営んでいる会社もあります。離島の印刷物は島民にとって生活を守る大変貴重な情報源ですから、営業活動というよりも生活必需品のお届けをするという気持ちで訪問しております。

最先端のオフィスで決められた勤務時間帯で働くお客様もあれば、土日も工場で忙しく働いているお客様もいます。様々なお客様に認めていただけるように、身なりは常に清潔にしなさい、朝から作業服で汗を流して働いているお客様の前に、真っ赤なネクタイや華美な服装でお伺いは決してしないように。訪問した時に相手が心地よく喜んでいただける営業を考えなさいと言っております。

紙のマーケットでは、同じ製紙会社の紙であれば、私どもから購入しても他社から買っても、紙そのものは同じです。ではなぜ私どもを選んで購入してくださるのかというと、お客様がこちらがお薦めした紙を使い、満足のいく良い製品ができあがるところまで我々は責任を持ちますよという、そういう思いが伝わっているからなのかな…と思うのです。

「こういうものをこれくらいの価格帯で作りたい」とのご相談には、ご要望にあった紙の提案を行いますが、時には別の意見もプラスします。注文してくださる銘柄の紙をお届けするだけが決して営業ではないと思っていますし、そういう面ではとことんフェアでリーズナブルなお手伝いをしたいと思っているからです。最終的にはお客様の信用までも左右しかねませんから。これは創業以来変わらない考え方です。

どんな仕事でも同じだと思いますが、営業は5年10年は下積みですよね。ですから、下積みをする覚悟は必要です。入社希望者が学生時代を体育会の過酷な環境で生活してきたと聞くとすごく期待してしまいますね。それと、好奇心旺盛かどうか。私たちの仕事は提案ができなければ相手にされません。お客様の求めていることを引き出すアンテナは、好奇心旺盛な人の方が持ち得ていますね。

―少し用紙の話になりますが、日本の紙販売において製紙会社と紙の商社は昔から変わらない関係にありますよね。

海外から輸入紙を直接扱い、その関係を飛び越える業者も存在してはいます。しかし国内製紙メーカーと紙流通の永年に渡る信頼関係は今でも強固です。新しい企業が参入しづらかったり、認めてもらえなかったりということはあったかも知れませんが、まず紙は市況商品であること、稀に天災などで操業が中断することなども経験し、メーカーと流通がお互い支えあう良い関係で長続きしてきた業界であることに間違いありません。

最近は、紙需要そのものが減退しており、価格重視で用紙を購入する場面も多くなってきました。例えば大きなイベントで、その日一日だけ大量に配るために作る印刷物でしたら、特別高価な紙を使う必要はありませんよね。通常は国産の用紙を使用されていたとしても、用途によっては、廉価な中国産を使うこともあるでしょう。マーケット自体がグローバル化していることも、顧客の要望が変化してきていることも認識せざるを得ません。

「紙は使う人次第で地球環境にやさしい再生可能な素材なのです」

―御社は森林認証紙にも力を入れていらっしゃいますが、環境に配慮した紙製品の販売についても積極的に取り組まれているということでしょうか?

実は森林認証紙についてはユーザーの「FSC認証取得企業からでないと買わない」という声で始まりました。ユーザーによっては、森林認証紙でないと製品を作ってはいけない企業グループも増えてきています、そのご意向に沿って製紙メーカーには、地球環境に配慮した紙の生産を提案しています。

一方で、海外の大企業が「紙の使用量を削減しているから私たちは環境に優しい企業です」とPRする例が増えてきました。教育現場でも「紙を使わないことが地球の温暖化を阻止する。地球環境を守るためには紙を使ってはいけない」と教えています。しかし、ここ20年の数字を調べると紙に対するネガティブな主張は必ずしも正しくありません。実際、紙は伐採された木のほんの一部しか使っていませんし、伐採した木は燃料であったり、木の中心部分は住宅建材として主に使用されています。残された部分から製紙メーカーが繊維を取り出して紙を作っているのです。

また、森林の中の各々の木に光が当たるようにきちんと間伐をしないと森は死んでしまいます。そこで、必ず光が当たるように間引きをして、伐採された木を紙に利用しているのです。紙専用の森林ももちろんありますが、遺伝子組み換えなどの最新技術を駆使し、計画的に植林され森林面積を保っております。決して温暖化を促進しているわけではないのです。

世間では、紙のために森林伐採が続けられているイメージがうえつけられてしまいました。そんなイメージを払拭し、きちんと正しい数字を知ってもらうために英国のTWO SIDESというNGOが「紙の使用は環境を破壊してはいませんよ」という活動を10年前から行っています。TWO SIDESというのは、「両方の意見」という意味です。意見と言うものは必ず両面あって、どちらか一方が絶対的に正しいということではなく、反対の意見をきちんと知らなくてはいけないという意味です。紙についても正しい理解と真実を聞いてほしいという思いが込められています。

実際、宇宙から撮った写真で地球の森林面積を測れば、ヨーロッパの森林面積は増加傾向にあるということが証明されています。このTWO SIDESの活動がヨーロッパでスタートし、アメリカにも伝わって、紙の削減キャンペーンを修正した大企業も出ました。また世界的規模で紙のリサイクルの仕組みが促進されてきましたので、使用された紙をもう一度回収して溶かし、新しい製品に甦らせることもしています。

ですから紙パルプ産業が、森林を伐採し、はげ山を作り、地球の温暖化の原因になっているわけではないのです。紙は使う人次第で地球環境にやさしい再生可能な素材なのです。今後は日本でもこの認識を広めようと紙業界では考えています。キャンペーンをどのように進めていくかにはまだ課題がありますが…。幸い印刷や出版業界の方たちも興味を示してくださっているので、協力しながら推進していけたらと考えております。

「封筒にこだわりを持って特別な紙を使っている企業はそれだけで夢のある素敵な会社に思えてきますね」

―デジタル化が進んでいることに関してはどう思われますか?

紙・パルプ産業がデジタル産業を否定しているわけではありません。ITが進歩すれば人々の生活はますます便利になると思います。しかしデジタル化が進み、紙をなくすという事とは違います。紙が生活からなくなれば、日本の良い文化も消えていきます。習字をならう子どもがいなくなり、旅をしても絵はがきを書けない。フォントを転換してデジタルで文章を作るので漢字を覚えない。本を読まない。

我々の育った時代は、墨をすって手を汚しながらも習字を練習し、上手に書けないから何度も練習をする、家族と山や海へ旅をしてスケッチブックに絵を書き、お年寄りと子供が会話をしながら一緒に折り紙をしてきました。手を使い紙で何かを作り上げるという工程が、今はキーボードを打つ画面上だけで完成してしまいます。何か足りませんよね。デジタル化がいくら進んでも、紙を触らせなくては子供たちの豊かな素養は育まれません。紙とデジタル、どちらの良さも活かしながらより良い環境を作っていくべきではないでしょうか。

―棲み分けをしていくことが大切ですね、紙製品の役割とはどんなことだと思われますか?

たとえば封筒にこだわりを持って特別な紙を使っている企業は、それだけで夢のある素敵な会社に思えてきますね。中に入っている情報が正確に届けば封筒の役割は果たせるのですが、開ける事が楽しみになる封筒があってほしいという思いはありますね。

―紙製品というと名刺もありますが、名刺についてはどのようにお考えですか?

個人的見解ですが、日本人と日本の企業はもっと名刺を個性的にしたら良いのではないかと思います。100社1000人の名刺を比べてもほとんど一緒ですから。仕事で海外に出掛けますと頂く名刺がその会社と相手を語り掛けてきます。紙の種類からデザイン、大きさ、手触り、印刷の仕方、目の不自由な方にも読める名刺もありますし、匂いのついた名刺もありました。

海外の方と意思の疎通が即座にできなくとも、名刺の奇抜さとそこに書かれている情報で、その個人を印象付けることができます。どのような会社で、どういう仕事の専門家なのかを理解するために、名刺の持つ個性と情報は意外な力を持っているものです。

―海外で使用された名刺のこだわりを教えてください。

私が一昨年、海外出張用に作った名刺はとても評判が良かったです。あっ、もちろん御社で作っていただきました(笑)

日本語の名刺の裏に英語を印刷するつもりはまったくありませんでした。ブルーのファインペーパーに紺の文字を浮出しで印刷しました。黒文字の方が読みやすいかもしれませんが、あえて紺にしたのは、その方が目に優しく、煩わしさのないスマートな印象を与えることができると思ったからです。英国でもドイツでも出会った紙専門家に褒められました。

「上手な字で手紙を書ける人はそれだけでとても魅力的ですから」

それと、今はほとんどいなくなりましたけど、ペンでお礼状を書いてきてくれる人いるじゃないですか。やっぱりメールよりも絶対(心に)つきささりますよね。

最近、米国の友人から手書きの絵はがきが届きました。彼とはFacebookやLINEなどのSNSでも繋がっていて、毎日のようにショートメッセージで会話しています。普段のやりとりはすべてそういうものを使っているので、「なぜ今、絵はがきなんだろう」と少し不思議に思いました。でも、手に取って手書きの絵はがきを読んでいると、特別な思いがこみ上げてきてとても嬉しかったですね。書いてある友人の思いが、海辺の写真とともに全部届いて入ってきました。

また、俳句や短歌が手書きではなくワープロだったりすると、せっかく良いものなのに浅薄なものに見えてしまいます。手で書く文字には威力があり、訴えがあります。ですから、先ほどもお伝えしましたが、私は子どもたちにぜひ習字をしてほしいと思います。墨で手を汚したり、疲れるほど硯で墨をいくら磨っても濃くならなかったり、上手に書いても最後に墨を一滴落として失敗してしまったり(笑)そういう経験を積んでもらいたいです。

上手な字で手紙を書ける人は、それだけでとても魅力的ですから。

「本を読みなさい」

―若い人たちへメッセージをお願いします。

あまりにも一般的ですが「本を読みなさい」ですかね。本を読むと、字も覚え、表現力も養えます。感性も磨かれ、何より人にやさしくなりますよ。


  • 郡司 勝美
  • 郡司 勝美
    Katsumi Gunji

    株式会社共同紙販ホールディングス
    代表取締役社長
    昭和53年3月 立教大学社会学部卒業
    昭和55年8月 米国アームストロングカレッジ経営管理修士課程修了
    昭和56年1月 日本紙パルプ商事㈱入社
    平成18年6月 株式会社共同紙販ホールディングス 代表取締役社長就任

  • 株式会社共同紙販ホールディングス
  • 株式会社共同紙販ホールディングス

    所在地/東京都台東区

    概 要/紙及び紙製品の販売

取材後記

凛とした気品があり、謙虚な姿勢も併せ持つ郡司社長。今回の取材のテーマは、印象に残る人物から紙卸業の営業スタイル、そしてデジタル社会の到来に伴う紙の価値と広範囲にわたりましたが、穏やかな雰囲気のなか私たちの質問にひとつひとつ丁寧にお答えいただきました。

相手の立場で物事を理解し、かつ別の角度から提案も行う紙卸業の営業スタイルは、豊富な視点を必要とするため非常に難しいと思います。しかし全く同じことを、郡司社長は紙の将来性という大きなフィールドで実践されていると感じました。物事をイメージではなく俯瞰して捉える力は、まず相手の考えを理解するために歩み寄ることで鍛えられるのかもしれません。

文/四宮真梨恵
写真/小野優衣
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