INTERVIEW
2017.12.06

㈱ソフトクリエイトホールディングス 林会長に訊く 一代で築き上げた創業者魂 「成功の秘訣」とは

採用面接や提案営業の初回訪問時など、誰かと会うときに短い時間でも強い印象を残すには――。

組織のトップには日々多くの人が訪れる。経営者の視点から見た「記憶に残る人」、「もう一度話を聞きたくなるビジネスパーソン」の特長とは何だろうか?経営者自身が実際に心がけているポイントも聞ける経営者インタビュー『PERSON ~印象に残るあの人~』。

今回は、ECソリューション事業シェアNo.1の実績を誇る最先端のITソリューションカンパニーを傘下においた、株式会社ソフトクリエイトホールディングス林会長に、一代で築き上げた創業者魂・成功の秘訣についてお話を伺った。

「技術で勝負するよりも
 人対人で商売をした方が楽しかった」

―1983年のパソコンショップ開店以来、常に時代を読み増収増益を維持しつづけていらっしゃいますが、移り変わりの激しいEC業界の波を掴んだ要因は何でしょうか。

ずばり、マーケットイン を徹底したことだと思います。マーケティングの概念として、「マーケットイン」と「プロダクトアウト 」の2種類がありますが、技術系出身の経営者は後者のプロダクトアウトをとることが多いです。なぜかというと、技術に自信がある人だとどうしても時間と費用をかけて性能の高い製品を作りたくなってしまうのです。性能の高い製品こそが「良い商品」で売れると思う。もし売れなければ、より開発に費用をかけて作りこむ。これが原因で失敗してしまうケースを数多くみてきました。

しかし私の場合、技術で勝負するよりも人対人で商売をした方が楽しかったので、お客様に喜ばれ売れる商品が「良い商品」と信じていました。どんなに性能が高くてもお客様に必要とされなければ意味が無いと思っていましたし、何よりも結果を重視しました。この考えは会社全体にも共通していて、創業当初からの経営ポリシーとなっています。

また、マーケットインの長所は、あまり費用をかけないで済むことです。お客様の声とニーズを集めたものを製品化するから無駄がない。例えば、ワークフローの「X-point」という商品はお客様の声から生まれた商品で、(持株会社の)エイトレッド社のメイン商品となり成功しました。当社は昔も今も一貫してお客様のニーズを重視し、ニーズがあるものを製品化しています。

「"頑張れば、報われる会社"というのを
 モットーにしていますからね」

―その成功の陰には社員の方のご活躍も強い要因とお聞きしました。

はい、弊社の自慢は役員の半分が専門学校やたたき上げということです。能力があれば学歴、社歴関係なくどんどん上がっていくことができる体制を徹底しました。若い世代でも実力があれば権限と責任を与えます。事業をスタートした当時は分かりやすく、自分の年収の3倍稼げと言いました。若手でも出来る人には年収も上げます。そのかわり予算も高くなります。できなければ次の年(年収が)下がります。予算が年収の3倍ならば、わかりやすくお互い納得して予算を決められるのです。

今では社長が代わったこともあり制度も近代的になったようですが、大事なのは社員が不満を持ちながら辞めないことです。年収と予算がアンバランスだと、社員はアンフェアだと思いますよね。そうすると不平不満を持って辞めてしまう人が出てくる。それは絶対に防ぎたいので、今も社長とそこは意識を合わせています。

―設立当初の方たちというのはそうやって鍛えられて、そういう方たちが今も残っていらっしゃるのですね。

そうですね。残っていますし、退職しても新しい場で活躍しています。また、一度退職して戻ってきた社員も多いです。当社は社員の出戻りが多く、役員のうち3、4人は一度社外で経験を積み、成長して戻ってきた人間です。退社したことは全くハンディになりません。「頑張れば、報われる会社」というのをモットーにしていますからね。

―社員数が増えると、お一人お一人の業務を掌握するのは難しいと思いますが…。

従業員200人くらいまでは一人一人の業務を把握していましたが、今は社員数が500人を超えそれは難しくなってきました。そこで、幹部クラスの働きと、若手でも非常に頑張って成長している社員については注目するようにしています。私は日頃から社員と1対1で会食する時間を設けるようにしています。1対Nの会食ではなく、各部門のキーマンと1対1で行くのがポイントです。なぜなら、本音を聞く事が出来るから。本音を聞けないと意味がないです。そこから、最近誰の調子が悪いとか、元気がないとか、情報を引き出しています。

それと、会長になった今でもECの営業会議に全て出席していますよ。最新のお客様の声は営業から聞きながら常にチェックするようにしています。どのような会社から見込みがあるのか、またどのような問合せ内容なのかを把握し、見込み先の会社にはどの営業が合うか適材適所で振り分けています。やりがいもありますし、面白いです。毎日朝8時から会議していますね。周囲から「会長なのにどうしてそんなに忙しいんだ」とも言われますけどね(笑)

―ECの面白さとはなんでしょうか?

ECはシステム技術中心のEC開発部門と販売促進の企画・制作部門に分かれます。これらの相互連携が上手く行き、その結果EC販売の売上が増加致します。最近ではこの企画制作部門の仕事が急増しております。

昔は、とにかく良いシステムを導入すればそれで終わったのですが、今はお客様がシステムを導入してからどうやって売上をあげていくかを提案できるかが勝負です。様々なマーケティングツールをどうやって活用して集客し、クロージングするか。どうやってコンバージョンを上げていくか…。

次々と新しい手法が生まれてくるので、常にアンテナは張っていないといけません。おかげさまで、弊社はECのNo.1プロダクターなので、さまざまな業者様から新しい情報をたくさんいただくことができます。トレンドをきちんとチェックし、良いものを取り入れてお客様の収益をあげることにお役に立てるかが大切です。

「"幸福の女神には後ろ髪がない"ってご存知ですか?」

―「良い」というのは、会長ご自身で判断されるのですか?

最終決断は社長と私で話し合って決めますが、日々、どういったものが世の中にあるのかを知らないと、良いものが目の前にきても判断ができません。ですから、とことんきめ細かくチェックするために、ECは企画制作部から営業、開発まで全て首を突っ込みます。今ではM&Aも取り組んでいますので、良いものは資本を投資してやっていこうとかいう話になります。

「幸福の女神には後ろ髪がない」ってご存知ですか?
目の前で女神が通り過ぎたときに慌てて「待て」と言ったとしても、髪が無いから逃げられてしまうのです(笑)幸福の女神が来た時に、通り過ぎる直前に判断しなくちゃいけないので、即時に判断してチャンスを掴むことが大切です。

―時代を読む力の源はどういったところにあるのでしょうか?

「これはいけそう」という閃きや感性、そして、知識が大事です。ただの勘ではなく、知識に基づいた閃きがチャンスを掴むのだと思います。私がEC開発から企画開発、営業まで総合的に情報をインプットするように心がけているのは、判断力を養うためでもあります。企画だけとか、ある一部署をみているだけでは判断することが難しいです。

「"おもしろそうだからインターネットでパソコンを売ってみないか?"それが事業転換の始まりです」

―パソコンショップから、見事に事業転換を成功されましたね。

今から34年前、世の中にパソコンが出始めた時はパソコンショップが少なかったのです。大手の秋葉原の家電量販店、カメラ屋さんもやっておらず、都内に専門店がぽつぽつとあるくらいでした。そんな頃に事業を始めたので、先発の有利ということで多くのお客様に来て頂いて、非常に売れたんです。それで首都圏で渋谷・横浜・八王子・大宮・秋葉原と展開し、全国に進出してパソコンショップで上場しようと思いました。第三者割当増資で資金を集め、仙台、新潟、広島や関西などでも、いろいろ店舗地を探していました。

その矢先にビックカメラさん、ヨドバシカメラさんが突然大々的にパソコンの販売を始めたのです。カメラ屋さんはパソコンでは利益が無くても良いということで価格がとても安いんです。仕入れ単位が一桁二桁違いますから、まったく勝てない。ですから、売上も徐々に右肩下がりになってきて、お店を閉めようか、と。

たまたま大学生の次男(株式会社ecbeing 代表取締役社長 林 雅也)がパソコンショップでアルバイトしていて、おもしろそうだからインターネットでパソコンを売ってみないかと提案してきました。じゃあやってみろと言い、それが事業転換の始まりです。膨大な初期投資がかかるわけでもなく、すぐに事業をスタートできました。また、インターネットでパソコンを売るほかに、ショップをたたんで法人営業に変え、企業にパソコンを売りに行かせました。これまでショップだったものを、ネットショップと法人営業というこの2つに切り替えたことで、人材も継続して活かすことが出来ました。

―事業チェンジのスピード感はどこからくるのでしょうか?

ある程度決めたら思い切ってやります、決めるまでは慎重になる必要がありますが。弊社は東証一部に上場してから約5年たちましたが、次男が「“スピード&チェンジ”というスローガンは全然似合わない」と言うのです。私が慎重すぎるあまり、新しい事をやらないからだと。それは反省しなければなりません。

ですから最近は、色んな会社とM&Aで挑戦の場を広げているのです。面白い会社がたくさん出ているのでね。このスローガンは、設立当初からのものです。とにかくチェンジしていこうという思いが込められています。

――スピード&チェンジというスローガン、ポリシーを維持するのは時代の変化に伴って難しくなると思いますがその中で経営者が求められることは何ですか?

IT業界はものすごく変化が早いです。ちょっと油断するとすぐ逆転されてしまう。ですから、常に勉強、最新の知識に関心を持って、教わって、知識を吸収していかないと、すぐに立ち遅れてしまいます。面白みと怖さの両方を秘めていますね。私は創業者で、もうちょっと前に出ていきたいのですが、今は若い人が主流です。この業界ならではの宿命ですね。

「話をしていて、話が続くということが大事ですね」

―第一印象について教えてください。出逢った人の中で印象に残った人はいますか。採用面接などで印象に残った人はいますか?

非常に難しい質問ですね。人の印象と言うのは、仕事を通してある程度の期間を過ごさないと理解できません。面談などの5分や10分で判断するのは難しく、永遠のテーマです。

社内で評価の高い社員の採用時の面談を振り返りますが、傾向もありません。面談時はとても評価が高くても、その後なかなか成果を出せない者もいるし、反対に、大丈夫かなと疑問を感じた人間が急成長することもあります。本当に難しく、短時間で人を判断できれば、会社は大繁栄するんじゃないかと思っているくらいですよ(笑)

―初めてお会いした方の中で、特に見る部分などはありますか?

話をしていて、話が続くということが大事ですね。学生さんと面談しているとき、ついつい時間オーバーするくらい話が続いてしまう人がたまにいます。ついつい話が次々と出てきてやりとりができてしまうということは、その方に魅力があるわけです。

会話というのはテンポ、フィーリングがありますから、次何話そうかな、何質問しようかな、と考えているうちはだめです。私は、自分自身が会社と思っているので、私とフィーリングが合うということは、つまり会社とフィーリングが合うということだと思っています。ですから、その部分は結構重視しますね。

―話が続くというのはどういうことでしょうか?話の話題が豊富ということなどですか?

いえ、話の話題が多く、自分ばかりが喋るという意味ではありません。こちらが質問して、答えられたことに対して話が広がっていく、ということです。相手の話をきちっと聞くことが大切ですね。よく営業に「聞き上手になれ」と言いますが、営業で最も大切なのは、お客様が気持ちよく喋れることで、これが成功の秘訣と思います。そして、そのために大事なのは、その会社がどういったことをやっているかなどを事前に調べて準備しておくことです。ぶっつけ本番よりも前もって準備しておき、あとは自然体で話が盛り上がるのが一番いいですね。あとは楽しく会話が出来るかですね。

弊社は採用の時に、内定を出して内定承諾も貰ったらすぐ採用した学生のご両親に礼状と花を贈ります。うちの子供は良い会社に入ったと、ご両親にとても喜ばれますね。そういうところもうまくいっています。

―最後にご自身の第一印象に関して何か心がけていることはありますか?

年齢を重ねると、服装にはより一層気を付けるようになりますが、自分自身が会社を表すと思っているので、おしゃれに見えるようにしています。特に大事な会合やパーティー等では好きな紫のネクタイや背広の裏地、チーフなどで決めることにしています。

※マーケットイン
商品の企画開発や生産において消費者のニーズを重視する方法。

※プロダクトアウト
商品の企画開発や生産において作り手の論理や計画を優先させる方法。


  • 林 勝
  • 林 勝
    Masaru Hayashi

    株式会社ソフトクリエイトホールディングス 代表取締役会長。
    1945年5月新潟県生まれ。1968年3月慶応義塾大学工学部卒業、同年4月三井造船入社。
    1971年3月白坂産業入社(現ソフトクリエイト)、同年4月取締役、1982年4月代表取締役社長、2006年代表取締役会長就任。

  • 株式会社ソフトクリエイトホールディングス
  • 株式会社ソフトクリエイトホールディングス

    所在地/東京都渋谷区

    概 要/ECソリューション事業、システムインテグレーション事業および物品販売事業

取材後記

林会長は質問に対して丁寧かつ快活に回答してくださり、ユーモアを交えた経営論で、終始笑顔に溢れたインタビューとなりました。お話の中で特に印象的だったことは、林会長は技術系出身でありながら、物事の中心にあるのは常に「人」であるということです。「人がすべて」というお言葉は、林会長のビジネスにおける明確な指針となっていると思いました。それだけに、人材に対するご期待の強さがとても印象的で、こうした環境が若手の成長スピードに好影響を与えているように感じます。時代の流れを読み、挑戦し続ける前向きなお姿は、様々な場面で出会う人に元気を与えてくれると思いました。

文/四宮真梨恵
写真/小野優衣
  • Facebook
  • Twitter
  • Line
  • はてなブックマーク
  • pocket

RANKING

ランキング

  • WATASHINO ONLINE STORE
  • IROGAAL
  • PERSON 経営者・VIPインタビュー
  • WATASHINO広告宣伝
  • 広告


Page Top