INTERVIEW
2018.05.10

㈱山櫻 笠原部長に訊く 新しい価値を生み出す困難と楽しさ 働く女性リーダーが語る 「新境地へのチャレンジ」とは

名刺の発注業務は事務作業の中でも特に時間がかかり細かい作業のひとつだ。社員一人ひとりの名刺データは異なり、異動の時期には膨大なチェック作業、納品日を考慮して印刷の手配まで行わなければならない。

そんな名刺発注担当者の仕事を劇的に変えたのが、株式会社山櫻が展開する「法人向けWeb名刺発注サービスcorezo(コレッソ)」だ。インターネットの黎明期である1999年から構想を開始。今から20年ほど前のことである。名刺の発注と言えば印刷会社へFAXを送り、手書きで校正していた時代、インターネットのビジネスがまだ確立しておらず、周囲から理解を得るのに苦労した。苦しい時期が続くなか、ある一人の女性リーダーだけは「このサービスは絶対に世の中に必要とされる」と確信していた。

今では当たり前となった名刺のWeb発注がどのように開発され、日の目をみたのか? 名刺のWeb名刺発注全国シェアNo.1を誇る株式会社山櫻 Web・IT戦略部門 笠原祥子部長にお話を伺った。

「自分たちで作り上げたものが大きくなっていくという楽しさがありました」

―今では名刺発注のスタンダードとなったcorezoですが、構想はいつ頃からあったのでしょうか?

1999年、ADSLの登場により国内のインターネット普及率が急増した年のある日、社長より「ネット上で名刺を作成する」こういうことを山櫻でもやれないだろうかという言葉を受けたのを覚えています。その時、利用料を課金するビジネスなら面白いですねという話になり本格的に事業に乗り出しました。

当時世の中では、ECサイトが少しずつスタートし始め、BtoBで利用するということは広まっていなかった頃で、企業の名刺をWebで発注できるサービスをASPとして展開するということは革新的な取り組みでした。

そして2001年、現在のcorezoの前身である「CARD MATE Web(カードメイトウェブ)」をリリースしました。

―今から約20年前からですか!山櫻はかなり時代を先読みしていたのですね。
ビジネスチャンスを感じたのはどのような点だったのですか?

紙製品のメーカーとして、名刺用紙やプリンターなど「モノを作って売る」という長い歴史があったなか、「サービスを売る」というビジネスモデルがとても面白いと思いました。ソフトやプリンターは評判が良く、とても売れましたし、その後の消耗品を継続的に販売するというビジネスはすぐに拡大しました。しかし、それはあくまでも「物」でありASPという「目に見えないサービス」で、一時的な金額は小さくても継続して積み重ねて言える収益モデルに大きな可能性を感じたのです。

―その仕組みは周りの方も可能性を感じていたのですか?

インターネットの世界はまだ入り口でしたので、どこの企業でもネットに関する新ビジネスの認知度は低かったです。

現在は新しい価値観を受け入れやすい雰囲気がありますが、特に山櫻は老舗の企業ですので、従来のビジネスを強くするという考え方が根付いていました。周囲は「モノではない商品」へのイメージができず、懐疑的だったと思います。

―どのような環境でサービスインしたのですか。軌道に乗ったのはいつ頃ですか?

開発会社との打ち合わせ、営業、サポート、トラブル対応など、プロジェクトメンバーは私を含めて3人しかいなかったので、すべて自分たちでやりました。大変でしたけど、「この事業は絶対に大きくなる」と確信がありましたし、先進的な企業での導入も少しずつ増え始めました。ですが利益的には苦しい状況が続き、6、7年は苦労の時代が続きました。

―長い苦労の時代が続いたのですね。なぜ乗り越えられたのでしょうか?

プリンターとソフトの販売を開始した時に私自身が関わっており、山櫻が紙製品以外の「プリンター」を「代理店」という販売方法で、新たな市場を開拓したという成功経験が、新しいビジネスを始める時の大きな支えになりました。そしてそこには、自分たちで作り上げたものが大きくなっていくという楽しさがありました。事業組織も小さかったので、自分たちでコントロールして築き上げていくことができたのは大変なことの反面、楽しさもあります。

「仕事というのは、"やらされている"と感じると楽しくありません」

―笠原さんが思う、仕事の楽しさとは何ですか?

仕事というのは、「やらされている」と感じると楽しくありません。与えられた役割の中で、自分で何か新しいものを創ったら、それは喜びになるのです。作り上げたものを受け継ぐ大切さもありますが、若い人たちには仕事に自分なりの新しさを加えて楽しさを見出してほしいと思います。

―20年間にわたる取り組みの中で、どういうことが変わってきましたか?

corezoはこれまでに大きなリニューアルを2回行っています。2011年に行われた1回目のリニューアルのポイントは、名刺のプレビューを表示させる機能と承認や発注をする機能をそれぞれ専門分野のベンダーに依頼することでした。

組版システムと、Webシステムとを別々に、その分野のプロフェッショナルへ委託することで、安定したサービスの提供が可能となりました。

そして2016年の2回目の大きなリニューアルで、WebはECパッケージの業界大手のベンダーさんに委託しました。かなり大きなリニューアルでしたが、カスタマイズに比較的容易に対応できることやクラウドという新たな分野に乗り出すことができ、サーバーを維持するコストを飛躍的に抑えることが可能となりました。

デザイン面では特例子会社も数多く使用いただいていたことから、アイコンの配色をユニバーサルデザインにしました。「誰でも使いやすく、わかりやすい」という点にこだわっています。

―corezoの今後の展開について教えてください。

将来的に、100万人のビジネスパーソンに利用されるサービスにしたいと考えています。そのために、corezoはこれからも進化する必要があります。新機能として名刺を発注した人一人ひとりに名刺が掲載されたマイページを無料で利用していただけるようになりました。人生100年時代に突入し、就労年齢もあがっています。名刺も見やすく直感的なものに流れが変わってきています。紙の名刺はシンプルに、伝えたい情報はデジタル化する、まさに名刺もIoTの時代です。

今はまだ名刺のIoTの必要性を疑問に思われるかもしれません。しかし、10社ある中で10社みなさんが良いと言うサービスは、すでに古くて考えるのが遅いものだと思います。新しいビジネスを始めるとき、いつもそう感じていました。10社中1社でも「おもしろい」と言ってくだされば、チャレンジする価値があると思います。

新規事業部立ち上げの中心となっていた笠原部長も、当時は二児の子育てと仕事の両立に奮闘していた。 子育てと仕事を通じ、自分自身の仕事観として見えてきたことがあるそう。

「これからも女性が働く意欲を維持できる環境であってほしいですね」

―笠原さんが子育てをされていた当時の働く環境について教えてください。

当時は世の中全体が子どもを育てながら働き続けるための制度がなかったので、出産後は多くの女性が仕事を辞めてしまいました。私の場合、私の母親が子どもの世話ができる環境にあったので、仕事を続けられましたが、そうでない場合は辞めざる得ない時代でした。

産休を取らせていただいたのは、私が会社で初めてだったのでロールモデルの方もおらず、自分が模範となって、前例を作るしかありません。家庭と仕事の両立は大変なことばかり。時間短縮制度なども無かった時代なので、フルタイムで働き、トラブルがあれば休日返上で対応する…そんな環境のなか、自分のやりたいことを貫くには無理をするのは当然でした。

しかし、私がこれまで通ってきた過程をみんなに経験してほしいとは思いません。現在では、昔のように無理をせずに女性が結婚・出産を経ても働き続けることができるよう両立支援制度が整備されてきているので、社員は制度を十分に活用するべきです。これからも女性が働く意欲を維持できる環境であってほしいですね。

女性が長く働く上でどうしても考えなければならないのが、出産と育児について。以前は、会社によっては結婚をする段階で寿退社を前提にして、会社を辞めるのが当たり前だという風潮があった。そのなかで、仕事を続けることを選んだ笠原部長のマインドとは?

「楽しいと感じない職場環境からは良いアイデアは生まれないと思っているんです」

―長く働き続けられる秘訣は何でしょうか?

私が働き始めた当時は男女雇用機会均等法があっても形だけで、女性が長く働くイメージはできなかったものです。私自身も絶対に一生働こうという強い意志があったわけではなく、偶然環境が許されたから続けていくことができました。ただcorezoをスタートする頃には何か新しいことをやりたいと思っていました。

子育てと新規事業の立ち上げという重要な時期を同時に経験して、困難な局面は多々ありましたが、それでも仕事の楽しさと、事業を任せてもらえる感謝の気持ちを強く感じていました。自分の子供のように子供たちを育ててくれた母親には一番感謝しています。(笑)

―女性たち自身のキャリアに対する意識変革も大事ということですね。

そうですね。今は女性には(本当は男性にも)色々な選択肢があるから、自分で自由に選択をしていけると思います。日本全体が女性のキャリアには準備ができつつありますが、日本の女性にはまだまだ仕事は続けるけれど管理職を目指す人は少ないですね。それには自分達の意識改革も大事だと思います。責任のあるポジションに抵抗があるのかもしれませんが、責任があるからこそ仕事の枠も広がっていくと思います。

管理職を誰もが目指さなければならないという事ではなく、男女問わず柔軟な働き方が選択できる環境が整うといいと思います。ただ、どうせ働くなら自分の将来の夢を描いたり、自分自身の人生の中で何年後にステップアップしていこうかということを考えて実現できる方が楽しいし、やりがいもあります。私自身、楽しいと感じない職場からは良いアイデアは生まれないと思っているので、いつも新しいことにチャレンジして「ワクワク」感を大切にしたいと思っています。


  • 法人向けWeb名刺発注サービス

800社の企業様にご利用いただいている企業向け名刺発注サービスcorezo(コレッソ)。corezoを基盤として様々な印刷物やサービスを購入していただけるシステムへ拡大中。IOTが進む中、「Paper to Web(紙からWebへ)」をコンセプトにさらなる躍進を推進中。


  • 笠原 祥子
  • 笠原 祥子
    Sachiko Kasahara

    株式会社山櫻 Web・IT戦略部門 部長
    立教大学社会学部卒業
    1994年山櫻入社
    プリンター販売部門を経て、Webを利用した企業向け名刺サービスの企画・販売に携わり、現在は山櫻のセールス部門 Web事業部とWeb・IT戦略部門を兼任

    パーソナルカラー:スプリング(春)

  • 株式会社山櫻
  • 株式会社山櫻

    所在地/東京都中央区

    概 要/日本の紙製品メーカー。名刺を始め封筒、はがきなどの紙製品を製造・販売。2011年に創業80周年を迎えた。 人と人、人と企業、そして企業と企業の『出会いをカタチにする』プロフェッショナルチームとして 新しい製品づくり・新しいサービスの提供、そして第二の企業創造にチャレンジし続けている。

取材後記

女性は、結婚や出産、育児などでライフステージが大きく変わることで働き方に与える影響が大きく、そのために自然と「働き方」を考える機会が多い。笠原部長が教えてくれた、子育て期間中の仕事や人生に対するマインド。「楽しさの無い職場からは良いアイデアは絶対に生まれない」それこそが、しなやかに働き続けられる秘訣なのかもしれない。

文/四宮真梨恵
写真/小野優衣
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